「超ライトノベル実践作法」(略してちん法)より
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「うわあ、大きいなあ」
港から堺の街並みを見た太郎丸の、最初のひとこと。
屋敷の数が多いのはもちろんだが、その建物が大きい。
白いしっくいで塗られた壁と、黒いれんがの屋根。
赤や青や色さまざまな店の看板。
日本のほかの街にはみられない光景だった。
「どうしたの。あんたも太郎丸さんみたいに、素直に田舎者らしくびっくりしなさいよ」
船酔いでぐったりしている三十郎の脇腹を、炎狗が肘でつついた。
「うっ……」
言葉も出せない三十郎は、えづくような呻きをあげるのみ。
「おいおい、ここで吐いたら置いてくぞ」と木さる。
小西弥九郎は、一行を薬種問屋、小西屋の別邸に案内した。
別邸は、問屋の屋敷のはす向かいにある。
広くて人がおおぜい出入りしている問屋に比べ、こちらは広壮な屋敷だが、人通りがない。
入り口で使用人になにごとかささやいた弥九郎は、一行を奥の座敷に案内した。
「初めての船旅でさぞやお疲れでしょう。こちらでゆっくりとおくつろぎください」
そう言うと弥九郎は去っていった。
「お疲れのようですわ。特にこちらの方は」
皮肉たっぷりに言う炎狗の言葉が、耳に入ったかどうか。
三十郎は疲れきった様子で、出された茶を飲む気にもなれないらしい。
「こちらの方へは薬湯をお願いします。鹿茸大補湯がよろしいでしょう」
冰雉はお茶を出してくれた女性に、冷静な口調で告げた。
「い、いや、拙者は……」
「あんたは黙ってりゃいいの」木さるは決めつけた。
「静かなところだね。外のにぎわいがぜんぜん聞こえないや」
太郎丸は感心して言った。
「こちらは小西様のお休みどころですから」
冰雉は静かに言った。
やがて弥九郎が戻ってきた。
「太郎丸さま、お引き合わせしたい人がおります。こちらへどうぞ」
「では拙者も」と、あわてて立ちあがろうとした三十郎を、弥九郎は押しとどめた。
「いえ、できれば太郎丸さまおひとりが、よろしいでしょう」
「し、しかし……」
「どうか、わたくしどもをご信頼ください」
弥九郎は微笑んで言う。
「あんたはここで体力回復してりゃいいの」
炎狗にすそを引っ張られ、三十郎はよろめき崩れた。
屋敷のさらに奥、廊下をいくつか曲がった先に、小部屋があった。
「こちらでお待ちです」
弥九郎はうやうやしくお辞儀をした。胸の十字架が揺れる。
ふすまを開けた先に待っていたのは、太郎丸が予想していたこの家の主人、小西骰イではなかった。
女性だった。それも、少女。
「……奈々姫」
太郎丸は呆然としながら、なかば無意識でつぶやいた。
「お久しゅうございます」
少女はふかぶかとお辞儀をした。
身を起こして太郎丸を見つめる大きな目から、涙がいくつもこぼれる。
「生きていたんだ」
うわごとのようにつぶやく太郎丸は、呆然と立ったままでいる。
「どうぞ、こちらへお座りくださいませ」
上座を小さな掌で示し、少女は涙をこぼしたまま微笑した。
奈々は影石河満の家老、西村勘佐の娘。
河満の妻、絹が西村家につながる血筋だったこともあり、両家は主人と家来という関係をこえて親密だった。
西村勘佐が娘の奈々をつれてご機嫌伺いに来ることもあり、逆に太郎丸が西村家に遊びにいくこともあった。
ひとつ年下の奈々を、太郎丸は妹のようにかわいがった。「姫」と呼ぶのは、太郎丸が奈々をからかってつけた呼び名である。
春のある日、太郎丸と奈々のふたりきりで、山菜を摘みにいったときの記憶がある。
そのとき、奈々はざるいっぱいに植物を載せて、太郎丸のもとに小走りでやってきた。
「太郎丸さま、ほら、こんなにいっぱい」
ざるの中にはおけら、ととき、のびる、たらの芽、いかりそうなどの山菜の上に、紫色の小さな花がいっぱいにちりばめてあった。
「ばかだなあ。これ、すみれじゃないか。食べられないよ」
という太郎丸に、奈々はにっこりと笑って、
「だって、こんなに奇麗だったんですもの」
と太郎丸の横に座り、すみれの花を集めて、細い指で茎を編みだした。
太郎丸がぼんやりとしている間に、奈々はすみれの花の冠を編みあげ、
「はい、これ。太郎丸さまにあげる」
と、太郎丸の頭の上にのせた。
(この子は、ぼくに恋心を抱きはじめている)
と感じた太郎丸だったが、その後はなにも起こらず、破滅の日をむかえた。
「太郎丸さま、なにを考えこんでいらして?」
むかしの記憶を辿っていた太郎丸は、奈々の声でわれに返った。
「……いや、別に」
太郎丸は頭を振って過去の淡い記憶をふりはらった。それよりも、聞かなければならないことがある。
「奈々姫のご両親は?」
奈々の目から、また涙がこぼれた。
「……そうですか」
「いえ」奈々は、小袖の裾で涙をふいた。
「父は立派に戦って死にました。武人としていさぎよい態度でした。母は陵辱のはずかしめを受ける前に、自分で命を絶ちました。武人の妻としていさぎよい態度でした」
「それはぜんぶ、ぼくのせいだ」
太郎丸は暗然とつぶやいた。家臣の安全は、頭領が守ってやる義務がある。それを怠り、砦をいとも簡単に破られ、自分もろとも家臣とその家族を殺してしまった父は、なにをしていたのだろう。それをただ見ていることしかできなかった自分も、なにをしていたのだろう。
ここに両親を殺された少女がいる。
一家皆殺しにされた家臣もいる。
ぼくは、そんな人間たちを放っておいて、母親さがしをすることが許されるんだろうか。
「太郎丸さまのせいではございません」
奈々は、暗い顔になった太郎丸を慰めるように言った。
「すべては戦国の世のならいでございます。しかたがなかったんです」
「しかたがなかった……」
太郎丸は奈々の言葉を反芻した。
本当に、しかたがなかったんだろうか。
「わたくしは、太郎丸さまが生きておられたことだけで、本当に嬉しゅうございます」
(妹だと思っていたら、姉さんみたいじゃないか)
太郎丸は奈々の成長を感じた。
(ぼくより、ずっとしっかりしているよ)
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これで10枚くらい。
トータル70枚くらい。全体の4分の1ですね。
しかし、バトルがねぇぇぇぇぇ。こんなことでライトノベルとしていいのだろうか。
あと幼なじみをつい出してしまいました。バーバラ様、まことに申し訳ありません。